いえかえろ

かんがえたこと わすれない

スタァライトのグラフィックデザインについて

レポートで書いたものなのだけど、単純にオタク文章なのでちょっと編集して載せることにした。デザイン面で見るレヴュースタァライト(アニメ版)。

 

1.スタァライトとデザイン

2.スタァライトロシア・アヴァンギャルド

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1.スタァライトと文字デザイン

今回取り上げる『少女☆歌劇レヴュースタァライト』(以下、スタァライト)という作品は、アニメ・映画・スマホゲーム、さらには声優による舞台まで展開されているメディアミックス作品である。アニメのあらすじは、“愛城華恋は舞台で生きてゆくことを夢みる舞台少女。聖翔音楽学園でレッスンに励む彼女の元に転入生がやってきた。神楽ひかり。彼女こそ幼い日に別れた華恋の幼馴染みで、憧れの舞台「スタァライト」に一緒に立つことを約束した運命の舞台少女だった……”[1]という、演劇をする少女たちの話である。

何故この作品を今回取り上げたのかというと、この作品は劇中に数多くの文字でのデザインが施されており、近年のアニメの中でもそれは一線を画す完成度であるからだ。劇中、映像内で文字による画面デザインがされている(次回予告などは除く)作品は他にも数多くあるが、(下図1,2:輪るピングドラムアイキャッチキルラキル劇中より。)それらよりも、ありとあらゆるシーンで文字を使ったデザインが出てくる。
図1f:id:ittanchugaeri:20210822112116j:image

図2f:id:ittanchugaeri:20210822112527j:image 


“少女歌劇”と銘打ってあるとおり、劇中では歌劇が行われるのだが、文字デザインが登場人物たちの演じる舞台を引き立てる要素の一つとなったり、視聴者に今あなたたちは彼女たちの舞台の一幕を見ているのだ、と感じさせる要素の一つとなったりしている。
以下、アニメとしての劇・作中の少女たちが演じる舞台としての劇の両方を魅力的にみせる要素であるスタァライトのデザイン面を、文字を用いたものやそれ以外も含め考察していく。


1.題目と曲目の配置

 劇中、視聴者がいちばん多くみることになるのが彼女たちが演じる運命の舞台、「レヴュー」の題である。(下図3:第01話情熱のレヴューより。)

図3f:id:ittanchugaeri:20210822112700j:image

画面の構成を見ると一番目立つ中央のスポットライト、その下に照らされている登場人物、さらにその足元で照らされているかのような配置の“REVUE”の文字。そして堂々と題として目立っている「情熱のレヴュー」。基本的に毎話のレヴューでこの題名・レヴューソングの組み合わせがレイアウトされるのだが、それも全て同一レイアウトというわけではない。(下図4,5第02話渇望のレヴュー、第03話嫉妬のレヴューより。)
図4 f:id:ittanchugaeri:20210822112748j:image
図5f:id:ittanchugaeri:20210822112753j:image
そのときの画角、登場人物・舞台装置の配置やスポットライトの当たり方に伴う視線誘導なども考えられて配置されている。
図4においては、スポットライトの照らされている方向が上から下、そしてしかも二人分であるため視線は確実に上から下へと誘導される。故に一番目に入りやすい中心上(手前スポットライトに重なって)にレヴュー題目の文字配置がされている。
図5においては、(右上のロゴは劇場版放映中の宣伝なので気にしなくてよい) 中央で明るく大きく照らしているスポットライト、その中で明るく照らされている登場人物、下からそれを見ている主人公…と確実に縦一直線の視線誘導が成されており、(実際の映像を見るとさらに縦方向の視線誘導が顕著である。)それに伴いこの回の題目の文字組み、配置は縦になっている。基本として曲目は画面左に縦組みされている(全部という訳ではない。後述)が、曲目と題目で真ん中の縦の動きの構図を挟むことで動きと文字の両方を際立たせる美しい構図が成り立っている。また、後述と書いた画面左に縦組みされていない場合のレイアウトであるが、これも動き・画面の魅力をさらに引き出すものである。(下図6,7第09話絆のレヴューより。映される順番は左から右。)

図6,7

 


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このレヴュー、実は物語の転換点の一つで特殊な演出になっており、この右の登場人物が用いる長刀(長刀と短刀を使う両刀使いのキャラクター。)が下からこのポジションまで振り上げられるので、その動きに合わせて刃先に視線が来たところでレヴューソングに目がいくようになっているのだ。この段階ではまだ題目は出てきておらず、次のカットで出てきた図7の主要人物が中央に映し出される(カメラはこのポジションに来るまで下から上へと動く。)ところで、題目が堂々映し出されるのである。今までの法則を堂々破っての文字レイアウトの演出、いかにこのレヴューが大切なものかを際立たせるものであることがわかる。

最終話、フィナーレを飾るレヴューは次図の通りだ。(下図8,9:最終話星罪のレヴューより。映される順番は左から右。)堂々のデフォルトレイアウトである。図9のスポットライトが照らす先を映すようにカメラがゆっくりと降りていくのであるが、完全に最終的にあのポジションに来たとき題目に目が行きやすいように視線誘導としてスポットライトを使っている。

図8,9


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さらに取り上げると、テレビ放映版と総集編劇場放映版での文字組みが違うのもこの作品のすごいところだ。(下図10:総集編の情熱のレヴューより。)

図10f:id:ittanchugaeri:20210822113606j:image

図3と比べると、全体的にフォントも変更され、配置のされ方も変わっていることがわかる。ここで面白いのが、「情熱のレヴュー」のスペーシングの違いである。図3ではレヴューの「ュ」の文字も一文字としてスペーシングされているのに対し、図10では「ヴュ」を一文字として合字のようにスペーシングされている。テレビモニターで見たときと劇場のスクリーンで見たときの違いが考慮されている(画面の大きさによる視線誘導の違いを考慮されていると推測する)。
 
このように、ほぼ毎話演じられるレヴューの題目・曲目を細かに変えながら(他の話数の分も紹介したいが、長くなるので割愛)、そして放映媒体の違いによって変化させながらいかに劇にとっても文字にとってもベストかというラインを探してレイアウトされていて、このアニメがデザインというものにも重きをおいて演出していることを感じさせられる。


2.象徴的なロゴの数々
 
この作品では、数多くの象徴的なロゴなどのグラフィックデザインが用いられている。その中でも一番象徴的なのは舞台衣装に変わり舞台に降りる際に多用される、主人公の変身バンクとしての機能も果たす、「アタシ再生産」という言葉のロゴである。(左図11,12:オープニング、最終話より。)

図11f:id:ittanchugaeri:20210822113803j:image
図12f:id:ittanchugaeri:20210822113808j:image

このロゴが用いられるとき、最終話以外は図11の画面に中央上部から主人公が落ちてきて…という構図になるのだが、その場合も図12の場合も、どちらの場合も主人公から放射状になるようなロゴの制作がされている。このロゴ単体の雰囲気はどことなくロシア構成主義を思わせるような作りになっている。というより、意識されて作られているのである。
 
スタァライトのデザインのディレクション全般を担当している濱祐斗さんのツイッターの呟きで、濱祐斗 ɐɯɐɥ oʇnʎ ⦵⦵⦵ on Twitter: "ロシア語の新聞、独特な言語のリズムが楽しい🇷🇺 ロシアといえば、スタァライトのグラフィック開発のために放送前に取材に行ったのを思い出します🦒 芸術運動としてのロシア・アヴァンギャルドとそうした思想が生まれる土壌について、肌感覚で触れられた経験がデザインの端々に活きたはず🗼… https://t.co/0CZZzeyEW3"[2]とある。
デザイナー本人が呟いているので、スタァライトのデザインはロシアデザインを背景に作られていることが明確である。特有の色使い、大胆な縮尺、全てが効果的に使われている。他にも構成主義のような幾何形態で作られたデザインがスタァライトには数々ある。(下図13:第07話劇中で用いられるポスターより。下の劇場版…は宣伝の文言なのでスルー)

図13f:id:ittanchugaeri:20210822114252j:image

この円二つとその真ん中を貫く鋭角は、劇中の舞台「スタァライト」の象徴である星摘みの塔を極限までシンプルにあらわしている。また、このアニメの象徴はもう一つあり、1ページ目にて記述したあらすじ“憧れの舞台「スタァライト」に一緒に立つことを約束した運命の舞台少女だった……”の中にある運命の舞台少女と主人公の約束の場所、東京タワーだ。
 このデザインはもちろん「スタァライト」内の星摘みの塔でもあるが、東京タワーとして見ることもできるデザインになっている。(左図14,15,16:第09話、劇中の舞台「スタァライト」原本挿絵、最終話。)

図14f:id:ittanchugaeri:20210822114402j:image
図15f:id:ittanchugaeri:20210822114358j:image
図16f:id:ittanchugaeri:20210822114354j:image

図15と16を見てから図13、14を見るとうまく間をとったデザインになっているように見えないだろうか。主人公と、主人公と約束を結んだ運命の舞台少女の約束の象徴であるこの二つを一つのデザインに込めることで、これがいかに特別な物であるか・約束が物語の中でどれだけ大切で象徴的であるかをうまく表現されている。
 
こうやってキャプチャ(スクリーンショット)画像とともにストーリーも交えて考察したが、スタァライトにおいてロゴデザインはとても重要なものとして扱われているのがわかる。デザインの巧みさ、そのデザインを扱うスタッフ全体の意識により、アニメがより洗練されたものになっている。
 1.と2.より、スタァライトにおいて用いられるデザインはすべてにおいて大切にされていて、アニメ少女☆歌劇レヴュースタァライトを素晴らしい作品にする要素の一つとなっている。ここまでデザインを劇中に用いるアニメは珍しく、デザイン面で見るアニメとしては他より抜きん出た仕上がりになっているように感じる。


[1] 少女歌劇レヴュースタァライト公式HP 第01話 舞台少女 あらすじよりhttps://revuestarlight.com/animation/story/
[2] スタァライトでデザインディレクション全般を担当する濱祐斗さんのツイッターより。 https://twitter.com/hama_design/status/1197713833562787840?s=20

 

2.スタァライトロシア・アヴァンギャルド

ここからはレポートに書いてない部分になる。

 

スタァライトのデザインにおいて上手いな〜と思ったらポイントがもうひとつあり、

まず濱さんが明言しているロシア由来のデザインの話になるのだが、ロシア・アヴァンギャルド下のデザインとは簡単に言えば"変革を求めた人たちのデザイン"である。

ロシア革命においてこのような幾何形態を用いたデザインは特にポスターに用いられており、そのポスターというのが「社会主義スローガンを掲げる」という目的のものである。

この頃のロシアは多くの国民が貧困に苦しんでいて、社会への変革を求めるために様々な運動が行われていたのだが、(ロシア革命なのでまあそらゃそうなのだけど)その中でポスターなどにおける表現は前からポスターにずっと用いられていたフォーク・アート的表現から社会主義へと変えるための「スローガンを人に伝える」象徴的表現を多分に含んだ構成主義的表現に変わっていった。この「スローガンを人に伝える」ためのデザインが今ではロシア・アヴァンギャルドのデザインで……

と少し長ったらしくなりそうなのでここで切るのだが、要約するとこのデザインの系統は人が"変革を・変化を求める中で成立したデザイン"であるということが言える。

レヴュースタァライトという作品に置いて、"変わる""変化"ということはかなり丁重に扱われており、(新作舞台においては大場なながレヴューの名乗りで「変革の時は来た!」と言ったりしましたね)舞台少女は次の舞台に向けてどんどん進化(≒変化)していく生物なのだ、と、常に変化しつづける者たちの話であるこの作品においてこの「変化を求める中で成立した」ロシア・アヴァンギャルドのデザインは成立理念からまさに合致しており、それに気づいた時はデザイナーのあまりのデザインを用いる巧みさに驚いた。

 

…というように、アニメ内の描写に限らずデザイン面でもおそらくとても考えられており、プロジェクトチーム全体がとにかくアニメについて考えるプロジェクトなんだ、と本当に感動している。結局この話の行き着くところは自分もこんな愛のある作品づくりいずれしたいな…というところに行きつくのだが…

スタァライトはとにかく多様な考察ができ、あらゆる側面から見ることができる作品でとにかく見がいのある作品であるので、このデザインの側面のみならず別の側面からデザインなどの考察をすることなどもしてみたい。劇場版のBDが発売されたらまた何か書くかもしれない。

 

(2.についてはめちゃくちゃ書き殴りでまとまっていないな〜と思うので後に編集するかも)(ちょっと学んだくらいの素人考察なので専門で研究してる方などいれば指摘などお願いします)